Jitz. LIFESTYLE

アートと柔術と、ライフハックと。

アートな感性を養う写真集の選び方

写真の見方、鑑賞の勘どころをこれまで書いてきた。なんとなく写真に興味はあるけどよくわからない、とくに写真に興味はないがなんとなくアートについて学んでみたいという御仁を対象に、最初の一歩の踏み出し方について記しておこう。

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写真というメディアは、カメラという特定のプロトコルによって変換された画一的なフォーマットだ。誰が撮ろうが、決まった形式で「写真」という名のアウトプットが出てくるものだ。同じものを撮ったとしても、構図の作り方、ロケーションやタイミングの判断、シャッタースピードや露出の加減などに個性が出る。だからこそ、写真家固有の眼差しが剥き出しになり、他者のものと比較しやすいという特徴がある。見る写真が同一撮影者による複数枚になれば、そこに写し出される写真家の問題意識やテーマが浮き彫りとなり、写真の配置によって写真にどのような文脈や観念、思想を乗せて撮っているのかが理解できる。

 

この記事の主張はシンプルだ。写真というメディアについて学ぼうと思うなら、是非とも写真集を手にとっていただきたい写真集という媒体を手にすることで、写真という平面に閉じ込められた複製芸術の魅力が立体的に立ち上ってくる。それがとりもなおさず、写真家が仕掛ける巧妙な戦略であり、世界観なのだ。現代アートとしての写真を理解するために。あんた自身の世界観を手に入れるために。さっそく、どのようにして写真集を選ぶべきかを考えていこう。

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まずはクラシックな一冊を

拙著の写真鑑賞論*1 で様々な写真家を写真集とともに紹介してきた。そのなかに気になるものがあれば幸いなのだが、まずは思考の鋳型として現代写真史を決定づけた歴史的な作品を手にとっていただきたい。聖典や古典といわれる作品から間口を広げていくというのは、どんな分野においても当て嵌まることで、これを省略して一足飛びしてしまうと後からつぶしが利かなくなる。最初の一歩は誰からも評価される、不朽の名作をじっくりと味わっていただきたい。写真集のオールタイムベストとして3冊を紹介する。

 

●ロバート・フランク:The Americans

The Americans

The Americans

 

●ウィリアム・エグルストン:WilliamEggleston's Guide

William Eggleston's Guide

William Eggleston's Guide

 

●ヴォルフガング・ティルマンス:Concorde

Wolfgang Tillmans: Concorde

Wolfgang Tillmans: Concorde

 

 

なぜ、この3冊なのか。実はこの3冊、それぞれ成長期<戦後>、変革期<70年代>、成熟期<現代>を代表する写真家によって撮られたものなのだ。戦後を代表する写真家ロバート・フランクは、ビート・ジェネレーションといわれる世代の系譜に立っていた。作品自体が多分に反骨的で、ドキュメンタリー写真の金字塔として今なお根強い人気を誇るものだ。エグルストンはアート市場にはじめてカラー写真を持ち込み、それまでの流れを一変させた。観念的で、独自の視点によって切り取られた身近な世界に、時代の普遍性や秩序を見出していた。ティルマンスは現代を代表するアーティストで、パーソナルとパブリックの領域を越境し、ジャンルレスにすべてを取り込み、コンセプチュアルな表現様式で現代社会を批評し続けている。

 

この3冊どれでもいい。まずはいずれかの写真集と向き合っていただき、じっくりと写真家と対話してみてほしい。写真家は被写体の向こう側に何を見ていたのか、何を表現したかったのか、何故にこの写真でなければならなかったのか。舐めるように頁を捲り、写真家と同じ時代、同じ場所、同じ視点を想像して身を置いてみる。解るようで解らない。そんな感覚でも、なにかしらの共感を覚えることができれば、あんたは既に深淵なるアートの世界に一歩踏み込んだことになる。

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評論家の批評を読む

次にやってほしいことは、写真評論家の批評文を読むということだ。上記の名作といわれる写真集を、評論家はどのように捉え、感じて、そしてどのように言葉で表現しているのか。そして何故にその写真集が評価されているのかを知る。そうすることで写真集を鑑賞し、御身で獲得した何がしかの感触と他者の相違点が浮き上がってくる。自分が感じたことと、他者の捉え方の違いを知ることで、新たな視点や解釈が生まれる場合もある。この工程を経ることで、自分の世界観を言葉で表現する*2という素養も身に付くだろう。

 

幸い、この小さな島国の写真評論家は数がしれている。誰もが必ずどこかで、この3冊について言及している文献が見つかるはずだ。ここでは俺が実際に読んだものを、参考文献として挙げておこう。

写真集が時代をつくる!-飯沢耕太郎が選んだ25冊の写真集- (PHaT PHOTO BOOKS)

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白と黒で―写真と…

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写真という名の幸福な仕事 (Life works (1))

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心惹かれるワケを探る

ここまでくれば、じっくり自分自身と対話をしよう。最初に手に取った写真集のなかで、どの写真が自分の心の琴線に触れたか。何故、その写真に惹かれたか。その写真の奥にあるテーマや写真家の問いかけは何だったのか。ここを明確にすると、写真家が扱うテーマ性や観念、問題意識に合わせて、自分の好みの写真を探し出す大きな手がかりになるはずだ。ここで浮かび上がったキーワードをもとに検索することもできるし、写真展などの作家によるステートメントの読み取り方も変わる。できるだけ深掘りして、その写真に心惹かれる理由を抽出してみるがよろし。

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とにかく写真を眺める

もう、あとはとにかく写真を見ること。実際に写真集を扱っているお店を探して、足を運んでみるのも良し。インターネットで写真集専門店の品揃えの中から、気になる表紙やコメントなどを手がかりにしてページサンプルを見るのもまた良し。個人的にオススメしているのは、できるだけ現在進行形で写真を撮っている作家の近作からアプローチするということだ。写真家が扱っているテーマや問題意識といったものは、同時代だからこそ共感できる要素が少なくない。お気に入りの写真家がどのようにして今後の作品を展開していくのかも、リアルタイムに追うことができる。

 

俺の場合はインターネット専業の書店、flotsam booksを参考にさせていただいている。この書店はとにかく網羅的に写真集を扱っていることに加え、店主の小林さんの確かな選定眼と知識、そして言語能力は信頼に足る。なにより写真に対しての愛がハンパないのだ。コメントを読んでるだけでも楽しいが、写真集の中身の図版も充実しているし、写真集そのものの質感も伝わってくるので、モノとして愛着が持てるかどうかもある程度判断できる。気になるキーワードで検索して出てきた写真集を、感性の赴くまま図版を眺めてみてくれ。

 

その先に待っているもの

好みの写真集が身近にあると、どんな世界が待っているのか。写真は図像なので、瞬時に視覚からその世界に没入することができる。疲れた夜であっても、ただぼんやりと眺めるだけで写真の世界が立ち現れてくるのだ。読書にはある程度の気力と根気が必要になるが、写真を眺めるのにそんな労力はいらない。ものによっては見るのに凄まじいパワーを要するものもあって、そういった感覚も是非味わっていただきたいのだが、やはり、いつ見ても飽きないものを手元に置いておくべき一冊になろう。

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そして写真を読み取ることができる最大のメリットは、視点の転換をもたらしてくれるということだ。人間というのはとかく保守的な生き物で、自分の見ている世界、感じている世界を固定化しがちだ。だが、世の中というのは決して一面的なものではない。固定したが為の落とし穴が幾つも存在する。だからこそ世界を眺める眼差しを柔軟にするという、実利的な観点からも写真を鑑賞できる力は意義があるし、常々云っている自分だけの世界観を構築するにも役に立つのだ。

 

是非、実践せられたし。

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*1:写真術 カテゴリーの記事一覧を参照のこと。写真鑑賞論は①~⑥までシリーズ化されており、その他にも補填として各論を展開している

*2:明日を生き抜くために、『世界観』という名の武器を授けよう』を参照のこと