Jitz. LIFESTYLE

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クローズドガード進化論 ~ブラジリアン柔術の魂を蘇らせよ~

みんな大好き解析動画を索きながら、柔術の技術解説と考察を試みようと思う。

 

先日、米国のコンテンツ販売サイトBJJ Fanaticsで衝撃的な記事を目にした。「クローズドガード、死にゆく技法」と題されたこの記事に書かれていたのは、近年、クローズドガードを用いる競技者、そしてクローズドガードに費やされている練習時間の総量が減ってきており、それはベリンボロに代表されるモダン柔術の台頭や、ジョン・ダナハー一派に端を発するレッグロック人気が起因しているのではないかという内容だった。

 

実は以前からMMAやノーギ、グラップリングの世界ではこの論調が盛んで、襟や袖などのグリップが確保できないこと、総合格闘技におけるレスリング技術の復権、その反動としてのグラウンドポジションの地位低下が大きな理由に挙げられている。最初から投げやタックルでテイクダウンし、トップポジションを確保した方が圧倒的に有利だというのだ。

【参考記事】MMA: Is the Closed Guard Dead? | Bleacher Report

 

しかし、はたして本当にそうだろうか…かつてはグレイシー柔術の象徴であったクローズドガードは、あたかも大国フランスがドイツ軍の脅威に対抗するべく国防戦略の要として築き上げながら、いとも容易く侵攻され無用の長物と化した史上最大の美しき国境要塞、マジノ線の如く過去の遺物となってしまったのだろうか。

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掲載元:ナチス侵攻を防げなかったフランスの要塞群「マジノ線」|WIRED.jp

 

そもそも「クローズドガード」(「クローズガード」、「クロスガード」と呼ぶ御仁もおられる)は、現代ブラジリアン柔術の祖エリオ・グレイシーが発明し、その後の柔術に技術革新をもたらした画期的なコンセプトだった。クローズドガードこそが最強のガードポジションであるという定説は、ゼロ年代に入るまで半世紀も覆ることはなかった。ゆえにクローズドガードは始原ブラジリアン柔術における魂、といえるものだったのだ。

 

体系の基礎をなすスタンダードな技術がもっとも完成度が高く、奥の深いシステムであることは近代武術では往々にしてあることなのだが、クローズドガードはトップポジションに対して通常不利とされるグラウンドポジションにありながら、技の展開とバリエーションが豊富で、トップポジションをも凌駕する強力なポジションとされている。それゆえ柔術はクローズドガードにはじまり、クローズドガードに終わるといっても過言ではないだろう。


Roger Gracie's Closed Guard Breakdown

 

ただし、実戦においてはクローズドガードに入れるまでの挙動と態勢の難しさが、しばしば取り沙汰される。両脚のあいだに相手を誘いこむのは思いのほか難しいことなのだ。実際、多くの試合で時間の大半はハーフガードに費やされているし、オープンガードの隆盛華やかなりし現代柔術ではクローズドガードに入る以前に決着してしまうケースの方が圧倒的に多い。本当にクローズドガードは効力を失ってしまったのだろうか。

 

クローズドガードの名手を考えてみたとき、不意にある人物の名前が浮かんだ。彼の試合映像の中に次世代のクローズドガードを考えるヒントがあるのではないか、とInstagramを見返してみる。「彼」とは、グレイシーバッハが誇る若き天才・山本博斗だ。なるほど、本人も敬愛してやまないホジャー・グレイシー(さすがは柔術家からもっとも尊敬される柔術家!)ばりの、インテンシティに溢れたなんともアクロバティックなクローズドガードではないか。オープンガードをすっ飛ばしてアグレッシブに引き込み、相手の重心・力の変化にタイミングを合わせて見事に技を繰り出している。

 

海外でクローズドガードの使い手として注目されているのが、天才カイオ・テハの秘密兵器としてメキメキ頭角を現しているRudson Mateus(ハドソン・マテウスと発音するのだろうか。Sarmento Telesという変名を使うこともある)。先日行われたL.A.でのキング・オブ・マットでも、あのジャクソン・ソウザとほぼ互角の勝負を繰り広げていた。そんな彼のクローズドガードは強靭な足腰を武器にして縦横無尽に体勢を操り、確実にマウントポジションかバックマウントへ移行する。フィジカルの強さと技術力の高さが為せる業。


Rudson Mateus Closed Guard Highlight

 

続いては怪物アンドレ・ガウヴァオン率いるATOSが満を持して売出し中の、若手成長株の筆頭ドミニク・ベル先生(最近、待望の黒帯を授かったみたいだ)。のっけから軟体を駆使してガンガンに三角絞めを狙いにいく変則的なガードワークで、オプション的にクローズドガードを採用していたりする。どんな体勢からも変幻自在に脚を絡め、確実に相手を引きずり込んでいる。Rudsonがスウィープを多用するのに対してベルは明確に極めを狙っているので、より攻撃的なガードスタイルといっていいだろう。


"The Gentle Art" | BJJ Mini-Highlight | Dominique Bell

 

こうして次世代の新星たちによる試合映像を見てみると、静的なイメージのオールドスクールなクローズドガードと対照的に、新世代のクローズドガードは動的な印象を受ける。相手の変化を冷静に見極める従来のクローズドガードではなく、自ら仕掛けにいくことで変化を生み出しているのだ。

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また、相手がスペースをつくってきた際やグラウンドを嫌がってスタンドアップした際の、技の展開やバリエーションが広がっているのではないか。こうしてみるとクローズドガードの進化と云えなくもない。より機動性を増し、攻守が渾然一体となった攻撃的なクローズドガードの時代へ。「後の先」であったかつてのクローズドガードから、「先の先」のクローズドガードへと変貌を遂げている。

 

しかし進化したのはコンビネーションやバリエーションだけではない。クローズドに入れるための「引き込み」の技術。それが何よりの要(かなめ)であり、進化を導引する因子になっているのだ。残念ながらかつての王権を復古させるのに、彼らの新たなクローズドガードはまだ発展の途上だと云わねばならない。引き込みの技術がきわめて職人芸的すぎるのだ。しかし、飛びつきなどの体系化が進めば近い将来、柔術界を再び席巻するガードスタイルになるのではないか。次世代型クローズドガードは、それだけの破壊力を秘めているように思われる。蘇れ、クローズドガード。

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結論を、あっさり一言で締めくくると…

クローズドガードは最強のポジションである。

 

 

 ※遂に発売された中井祐樹『新バイタル柔術』。前著は多くの柔術家にとってのバイブルとなった。これを読んで御身のガードスタイルにさらなる磨きをかけるがよろし。

※元祖「ガードの名手」といわれたヒリオン・グレイシー。今なお、技術の美しさは色褪せない。


Rilion Gracie Mundial - 2ª Luta