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2018ロシア FIFAワールドカップ総括

総評

約1ヶ月の熱狂が終わった。波乱ずくめのグループステージから幕を開けた2018ワールドカップ(W杯)ロシア。しかし、決勝トーナメントは総合力に勝るチームの順当な勝ち上がりとなったように思う。最終的には俺流の地政学的分析で云うところの「ランドパワー」国であるフランスと「シーパワー」国のクロアチアによる、絵に描いたような構図の決勝戦。そして、ランドパワーの勝利。

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劇的な展開が多く見られたことで、歴代のW杯の中でも近年稀にみる盛り上がりを見せた大会でもあった。その要因は何だったのか。ひとつは間違いなくVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の導入であろう。従来は目視のみで行っていたゴール前の攻防における主審の裁定に、「明らかな間違い、明らかな不公平」を排除すべく導入された「最小の介入で最大の効果を得る」ビデオ判定。全体的には従来よりも公平性が増したようにも思えるのだが、一方ではネイマールに代表される選手の過剰なシミュレーションや決勝戦での不自然な判定を助長することにもなり、今後の活用に向け課題は山積みだ。

 

他方、科学的アプローチによる技術向上は試合運営のみならず、監督やコーチ陣によるマネジメント側のスカウティングを向上させたこともあきらかだ。数年前までは扱い方がわからなかったであろう各種データもようやく実証研究が進み、エビデンスが積み上がったことで結果として最新の戦術トレンドとも結びつき、より高度な采配がなされるようになった。それらがベルギーの大胆な可変システムやメキシコの変則的な守備戦術として結実したと云えるのではなかろうか。

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今大会を読み解くキーワード

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①戦略の勝利

こう書いてしまうと至極当たり前のようではあるが、長期的な視点から年月をかけて育成に力を注いできたベルギー、クロアチア、アイスランドといったヨーロッパの小国による躍進が目立った大会であった。技術だけではなく戦術的な適応力やイマジネーション、チーム・コンセンサス、アイデンティティの統合など含めて、何世代も見越したうえでの国家戦略による育成がワールドカップにおいて大前提になっていることの証左だ。

 

②ポジショナルプレー

以前に書いた記事でも触れたことだが、従来のシステム論では捉えきれないポジション的役割やタスクを担うプレーヤーが現れるようになり、目まぐるしくゲームの位相が入れ替わるようになった。その結果、まさに攻撃こそが最大の防御となり、カウンタープレッシングなど攻撃的な防御が大きく勝敗の鍵を握ることになった。これらの変化が選手固有の天才性を希薄化し、チームとしての有機的な結合力、機動力を輝かせているのだ。

 

③頭脳化するCF(センターフォワード)

いわゆる攻守という2局面のみならず、「ポジティブ・トランジション」と「ネガティブ・トランジション」を加えた4つの位相で情勢が形成されるモダンサッカーでは、ゴール前に張って点を獲ることが仕事だった従来型のCFは孤立してしまう傾向にある。そんななか、CFであっても司令塔ばりに俯瞰する能力を備え、どんな役割も厭わない頭脳的なプレーヤーが台頭している。規格外の身体性を発揮しながらも高度なインテリジェンスを併せ持つルカクや、瞬時の判断力でここぞというときに存在感を示すエムバペなどがその代表格だ。

 

④チョークポイント(要衝)化したGK(ゴールキーパー)

セットプレーの重要性・決定率が増していることで必然的に高まるのが、GKの精度とマルチタスク化。いかにして失点を防ぐかという最終局面では、GKの職人性、天才性に委ねざるを得ないところは今も昔も大きい。ワールドカップで上位に食い込むためには優れたGKの存在が不可欠になった。どんなGKを置くかでチームカラーも変わる、最も戦略性の高いポジションになったのだ。さらに現代はGKといえどもボランチなみの高度なビルドアップ能力が求められる。ベルギーが日本代表戦で見せた、あの美しすぎる高速カウンターの起点になっていたのもやはりGKのクルトワだった。

 

⑤ポゼッションサッカーの終焉

 決勝トーナメントでロシアを相手にしたスペインは、驚異的な支配率74%を記録しつつシュート数では13本を放ちながらも1-1から決めきれず、PK戦に敗れて敗退した。他方で総得点12点のうち、9点がセットプレーで、さらに5点はヘディングによって稼ぎ出したのは準決勝まで勝ち上がったイングランドだった。もはやショートパスを多用して支配率を高めるだけでは勝つことができないのがモダンサッカーだ。ゲームの流れや趨勢に相関なく、非対称的に勝敗が決してしまう。よくも悪くもカウンター全盛の戦術トレンドで、美しく華やかに観客を魅了するサッカーは市民権を失ってしまった。

 

今後、注目すべきブライテスト・ホープ

キリアン・エムバペ(フランス)

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所属クラブ:パリ・サンジェルマン(リーグ・アン/フランス)

今大会はまさに彼の大会だったと云っていいだろう、フランスの神童。世界を驚愕させたスピードと瞬発力、そして成熟した判断力。さすがは“レ・ブルー”の10番を託されただけあって、すべてが破格だった。10代ながらに、すでに完成された技術と風格をそなえているだけに今後どのような進化を遂げることになるのか、まったく予測ができない。彼のインパクトの余波を受けて、しばらくはフランス産アタッカーの需要が高まること必定だ。

 

ロドリゴ・ベンタンクール(ウルグアイ)

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所属クラブ:ユベントス(セリエA/イタリア)

あのマルセロ・ビエルサが“ウルグアイのピルロ”と絶賛していたことで注目していたウルグアイの逸材。その賛辞どおりシャビやシャビ・アロンソ以降の、久々に現れたエレガントなレジスタがスアレス、カヴァーニの最強2トップを長短織り交ぜたパスで巧みに操っていた。今大会ではどちらかというと本職のボランチというよりはトップ下での起用が多かったが、確実に攻守の「スイッチ」役となりウルグアイの鍵になっていた。

 

ピオーネ・シスト(デンマーク)

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所属クラブ:セルタ(リーガ・エスパニョーラ/スペイン)

今大会で一際異彩を放っていたのがデンマーク代表のFW、シストだった。変則的なリズムをともなったドリブルで、確実に天才クリスチャン・エリクセン擁するデンマークの攻撃のアクセントになっていた。今大会ではシャドー的な役割を担い、エリクセンと前線のつなぎ役になっていたが、それこそウィングなんかに起用されてもおもしろそうだ。今後、独特のタッチのドリブルをより深化させることができれば、大化けする可能性もある。

 

最後に日本代表について

自国のことながらに批判的な目で見ていた日本代表なのだが、スカウティング能力は世界レベルであることを証明した大会だったと思う。コロンビア戦での試合開始直後の相手のウィークポイントを突いた積極的な仕掛け、批判にさらされていた本田をうまく活用するなどの選手起用の妙、西野監督の采配は神懸かっていた。とくにポーランド戦で見せたあの敗戦への決断は、日本のマネジメントにも戦略思考が根付いていることを実感させた。願わくばサッカー協会には監督人事においても、その戦略思考を一貫してもらいたいものだ。

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