Jitz. LIFESTYLE

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QUINTETを解読する分析グラップリング学

QUINTET、観てます?
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往年のグレイシーハンターとして、国民的人気をほこった桜庭和志が新たに立ち上げたグラップリング・イベントQUINTET(クインテット)。紳士の国・イギリスの人気格闘イベントPOLARISから最強グラップラー陣が集結し優勝を飾ったQUINTET.1と、国内軽量級による異種格闘戦となったFIGHT NIGHTのどちらも観てた。
 
グレイシー一族の襲来以降、断絶したに等しい日本の寝技文化は何処へ行こうとしているのか。HERO’S、DREAMに連なる日本の総合格闘技の文脈に、QUINTETは何をもたらすのか。そういった格闘技史における意味合いみたいなものを考えながら観戦していたのだけど、奇妙な違和感みたいなものがあって、なかなか言語化できないでいた。その違和感については後述することになる。
 
QUINTET.1はポーランドの“足関王”ことマーチン・ヘルドや、新世代ブラジリアン柔術家クレイグ・ジョーンズによる最新鋭レッグアタックなど、テクニックと頭脳のみで競うことができるようルール整備がなされたことで世界レベルの寝技技術のお披露目となり、プレーヤーのみならず観る者を楽しませてくれた。
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が、これはあくまでも表層のはなし。実際のところはPOLARISドリームチームという、なんとも夢のあるネーミングからは想像もつかぬ、まるでネオナチのような超絶サディスティック集団による一方的な“虐殺ショー”でしかなかったといえば云い過ぎだろうか。実力差ありすぎるうえに、国内勢は一世代も二世代も前のロートルたちが第一線の現役を相手しようってんだから、まるで話にならない。なぜ、興行としてのこの構造的欠陥をマスコミや有識者は問題にしないのだろう。
 
どんな態勢からもレッグロックという最終形に向けて、変態的な身体操作によりシステマチックに相手を追い込んでいくクレイグ・ジョーンズ。独自に進化させたZガードさえも、相手の足を取りにいくためのトランジションの一形態に過ぎず、すべてのムーブが攻撃へと変貌していく。それはあたかも“カフカ”的なメタモルフォーゼを思わせ、攻守が渾然一体となった変幻自在のトランスフォームは驚異的だった。あまり知られていないけど、彼は心理学の学位を取得している知的エリートでもある。物理的のみならず心理的にも相手をじわじわと追い詰めていく、間接アプローチに長けた理詰めの“関節ターミネーター”なのだ。
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MMA筋から歓喜の声を以て迎えられたマーチン・ヘルドもまたヤバかった。“戦闘サイボーグ”然とした怜悧なポーカーフェイスで、サドルポジションやインバーテッドガードなど最新のテクニックを駆使し、一縷の隙もなく様々な足関節やトランジションによって相手を確実に破壊していく。かのニーチェが提唱した“超人”という概念はこーゆう人のことを云うのだろうなぁと思いながら、サンボ・ドリームチーム戦での3人抜きを眺めていた。

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もうひとつの見どころは近代ブラジリアン柔術の祖、ホーウス・グレイシーの血の繋がりのない遺児グレゴー・グレイシーと、日本のリングを降りた後にプロレスの神様ことカール・ゴッチの、失われた“アーク”ならぬ「キャッチ・レスリング」の技法を習得したジョシュ・バーネットとの、大事なものを失い、失われたものを手にした2人による体重差20kg以上の4分一本勝負。
 
"オールドスクール"といわれる古典的なグレイシー柔術のテクニックでモダン柔術に対抗する術を見出したというグレゴーだが、グレイシー柔術の代名詞ともいうべき最大のアドバンテージであるクローズドガードを制限され、どこまでできるかがポイントだった。云ってしまえば、「翼の折れたエンジェル」状態のグレゴー。
 
グレイシー柔術の継承者であるはずが、あろうことかなんとレスリング・テクニックによってジョシュを往なしてしまう。攻めあぐねるジョシュを尻目に時だけが過ぎ去り、無情にもタイムアップ。わずか1試合の出場で痛み分け。なんのインパクトも残せなかったジョシュの、哀愁さえ感じさせる内容だった。
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「私の柔術は、体重の軽い者が重い者に勝つために作ったものであり、力の弱い者が、強い者から身を護るためのものだ」と語っていた、かつてのエリオ・グレイシーは自らの末裔(血の繋がりはないけど)によるこの試合を見て何を想っただろうか。MMAのケージでは効力を失ってしまった柔術の有効性を証明するには絶好のシチュエーションではなかったろうか。そういう意味では“プロ柔術”を標榜するPOLARISの勝利ではあったものの、グレイシー柔術の敗北をも意味していた。
 
他方、ジョシュとともに見る影もない状態に陥っていたのはイベント主催者でもある桜庭和志だった。決勝戦で桜庭とあたったダン・ストラウスは、こともあろうにレジェンドとのスパーリングを楽しむかのようにリラックスしきった様子で試合に臨み、ときに笑みを浮かべる。あきらかにスタミナが尽き精彩を欠くかつてのIQレスラーを幾度もスイープするもリスペクトからか仕留めきれず。プロの興行としてはお粗末な試合だったともいえる。
 
唯一といっていい日本人選手の見せ場は「闘うフリーター」として総合格闘技で名を馳せた所英男が、韓国の柔道家キム・ヒョンジュを相手に開始わずか14秒で極めたスライディングからの腕十字。美しすぎるムーブとして大会エポックとなり、各国の格闘クラスタで話題をさらった。“足関の鬼”こと今成正和(当の本人はFIGHT NIGHTに出場)による「イマナリ・ロール」(ロールケーキの名前じゃないぞ)のお株を奪うような捨て身のスライディングに、俺は武士道にも通ずる所の特攻の精神を見た。
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さて、ここからはQUINTETに見る日本のグラップリングの未来を考察してみたい。ここまで述べたように、Jiu-Jitsuの文脈からはQUINTETを捉えることが難しい。なぜなら柔術自体が本来的には実用性にフォーカスし、競技性を阻害した格闘技であるからだ。

 

そもそもがエクストリームスポーツとして受容されつつあるグラップリングに、そういった柔術の武道的側面を重ね合わせることに無理があるのだ。グラップリングはあくまでも競技であり、スポーツなんだから。相互のポジショニングとその可能性を解析しつつ、最後の瞬間に向けて緻密なルートを組み上げ、敵の打ち手を詰んでいく伯製柔術の“戦略性”は、ルールによる膠着の「排除」と引き換えに喪失した。

 

つまりは純粋な柔術の、頭脳的な醍醐味を希薄化するルールになってしまっているのだ。冒頭で俺が感じた違和感は、まさにこれ。しかしながら武術の思想性や奥深さを排除したうえで、あくまでカジュアルに寝技の魅力を伝えるという点においては、QUINTETは破壊的なまでに強力な訴求力を手に入れた。そして、それは目が肥えていない素人にも受け入れられるだろう。結果として、観戦者・競技者双方の育成に繋がっていくことになる。
 
一方ではルールにより統制された世界の中で、よりストリートでは適合しえない非現実的で競技ルールに最適化された独自の技が発展していくことになりそうだ。ここでとくに注目したいのは“間合い”だ。道着など掴むものがないグラップリングは必然的に距離感が近くなる。さらにQUINTETの場合は膠着が許されないので、絶えず相手と密着した状態になることが多いのだ。その結果、ゼロ射程ともいうべき至近距離での攻防を余儀なくされることになる。

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「ジョジョの奇妙な冒険」における虹村形兆のスタンド『バッド・カンパニー(極悪中隊)』は、あらゆる射程に対応できる最強のスタンドだったと思う。こういうの、リアルに欲しい。


となると、デラヒーバガードやスパイダーガード、ハーフガードなど中〜長射程のオープンガードの出番は少なくなり、必然的にクローズドガードやワンレッグXガードなどの超短射程のガードポジションの主戦場になってくる。ところが周知のようにクローズドガードはルールによって制限されているし、ワンレッグXも相手の股下をくぐる必要性があるために咄嗟でのセットアップの難易度がきわめて高い。おそらくはディープハーフあたりが多用されることになるだろうな。
 
これらのことを勘案すると、QUINTETルールに最適化した新たなガードポジションやパスガードが開発される可能性が高いということだ。そう、ジョン・ダナハーがゲイリー・トノンやゴードン・ライアンらによってMMAを震撼させることになる独自のレッグロック・システムを作りあげたように。
 
クレイグ・ジョーンズによるZガード(ニーシールドハーフガード)も短〜中射程向けの有効なポジションではあるが、彼の驚異的な身体能力の為せる技でもあるので誰にも体得できるという汎用性はないのだ。そういった新たな技による深化が、柔術を、グラップリングをより発展させるものになるものなのかどうかは今の時点で知る由はない。
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と、なにやら大真面目にネガティブなニュアンスも仄めかしてみたりしたけど観続けるしかないんだよ、結局は。ひひひひひ。なんたって、QUINTET.2はエディ・ブラボーが弟子を引き連れて日本に来るんだぜ。

 

「ツイスター」と名づけた柔術版コブラツイストを基点に独自の体系を編み出したり、出来損ないの三角絞めみたいなポジションを「ラバーガード」と称して変幻自在に軟体を操るエキセントリックな稀代の発明家、あのエディ様だぞ。一部のカルトな信者と引き換えに絶大なアンチを生み出す男。まさにロックな生き方を体現している漢の中の漢。楽しみで仕方ない。以下の2冊はマジで名著。

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グラップリング・テクニック ラバーガード

グラップリング・テクニック ラバーガード

 
ツイスター

ツイスター

 


今のところは多分にキャスティングが興行の成否を握っているQUINTETだが、企画の連中がいい仕事してやがるんだよな。そんなフロントのヤツらの策謀にものせられ、「QUINTET、観た?」「クレイグ・ジョーンズ、ヤバかったよな」などとすでに術中にハマってしまっている自分に自己嫌悪したりして。心の中ではこう云ってしまいたいのだ、本当は。
 
「あんなの柔術じゃねぇよ。セルフディフェンスの役にも立たないだろ、そんなの見たって。」

 

QUINTET.1 2018.4.11両国国技館 DVD

QUINTET.1 2018.4.11両国国技館 DVD