Jitz. LIFESTYLE

アートと柔術と、ライフハックと。

嗚呼、素晴らしき哉"美食"を堪能するスゴ本5冊

『料理』は哲学的な営為だ。何故にその食材を選び、違う食材を組み合わせ、煮るなり焼くなりの調理を施すのか。そこに多元的に加えられたハーブやスパイス、ソースは作り手のどのような“戦略”を内包して、食べ手にとってどんなドラマツルギーを創出するものなのだろうか。いや、そもそもが。眼の前に差し出された一皿は、「私」にとって何を意味するのだろうか。

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なんの疑いもなく出されたものをただ食す、そーゆーことに俺らは慣れてしまっているけれど、供された料理の意味についてひとたび考えてみると、まるで迷宮に迷い込んだ不思議の国のアリスみたく料理人の術中にはまっていることに気づく。考えれば考えるほどに、形而上学的な世界がそこに拡がっているのだ。

 

唐突に『料理』を語りだしたのは久々に俺の感性を刺激しまくるスゴ本と出会い、大いにインスパイアされたからだ。以前にも作り手のスタンスについて考察した記事を書いたことがあったが、料理に対する向き合い方、捉え方がその人の人生観そのものだと言っていいくらい、人生の本質が料理には内包されていると思う。もちろん、それは作り手のみならず如何に味わい、どう表現するかというところでは食べ手にも共通する普遍性が内在しているのだ。

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今回はそんな料理・美食をキーワードにして、独自の世界観を提示した名著を紹介してみよう。ここに挙げる5冊いずれを読んでも、あんたの料理観が一変することを保証するよ。それはなにより単なる食通、料理マニアによるグルメ本ということを差し引いて、人生をより良く生きるためのヒント、示唆が多く散りばめられている。ぜひ、そんな美食の世界を堪能されたし。

 

①料理人という生き方 道野正

冒頭で大いに刺激されたスゴ本と評したのが、この本。大阪・福島に店をかまえる知る人ぞ知るフレンチの名店、『ミチノ・ル・トゥールビヨン』のオーナーシェフ道野正による珠玉のエッセイ集であり、魅惑の料理37皿を撮り下ろした写真集でもあり、ならではの図版から作り手自ら料理を解題したレシピ集でもある。特筆すべきは道野氏の特異な経歴。人生の意味を模索し同志社大神学部に進むも熟慮の末に突如、料理人の道に入ることを決心する。その思考の軌跡も文章に綴られている。

 

この本の何が凄いかというと、『ミチノ・ル・トゥールビヨン』を代表する各々の料理を生み出すに至った過程が克明に記されていることだろう。たとえば、この図版を見てほしい。これが何を意味するものなのかお解りになるだろうか。

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実はこれ、道野氏直筆のレシピなのだ。なんともモダンで創造性に溢れた氏の料理の、味の構造を示した設計図が包み隠すことなく掲載されている。ちなみにこの料理は、映画化もされている山本兼一の時代小説『利休にたずねよ』から着想を得たという一皿らしい。そして、この設計図にしたがって作られた実際の料理がこちら。盛り付けも味も、したたかに計算され尽くしていることがよく理解できる。

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その類まれな感性から生み出される至高の料理が、いかに完成するに至ったか。どのような発想によって創作が為されているのか。道野氏の脳内の思考の変遷が公開されたという点でも貴重な内容であることは、ここまでお読みいただいたからにはお解りだろう。そして、もともとはブログで書いたものを下敷きにしたという道野氏による言葉もいちいちカッコいいし、実に示唆に富んだ内容になっている。

 

「思い起こせば、この歳になるまで多くの人にお世話になりました。だからこれを機に、もう一度、真摯に自分の料理と向き合おうと考えました。変化というものは外からくるものではない、自分の内からしか湧いてこない、そのことにも気が付きました。そうして石を積むように慎重に、一つずつ一つずつ積み重ねてきました。やがて表れてきた料理は、独創でもなく伝統でもない道野の料理でした。」(P.27)

 

「見た目はあまりに地味です。まるで流れに逆らっています。でも、理論的には隙がありません。そして実際、ここには豊穣といえる味わいがあります。これがぼくの料理です。そして、これまでの集大成でありスタート地点です。」(P.212)

 

「この飾り気のまったくない料理は、ぼくのささやかな誇り、です。」(P.24)

 

収録された写真もまた、タイポロジー的によく練られた編集がなされており、実にクリエイティブだ。このようなハイクオリティな書籍が大手出版社からではなく、インディペンデントなレーベルから出版されていることも意義深い。「道野正」という生き方に何を見出すか、どう共鳴するかは読者によって違ってくるだろう。それくらい多面的な読み方ができる素晴らしい本だと思う。

料理人という生き方

料理人という生き方

 

 

②美味しい料理の哲学 廣瀬純

いま、もっともラディカルな批評家といっていいかもしれない廣瀬純が美食による連帯、コミュニズムを誘発するために書き上げた思想書だ。フランス革命以降の哲学あるいは思想において、生物学的機能から開放された「性」がその主要テーマのひとつになっていたのに対して、生物学的機能から開放された「食」が語られることはまったくといっていいほどなかったという。

 

そんな「食」について、従来とは違う角度から物事を考え、新たな言葉を紡ぐことを目的に著されただけあって、焼き鳥の串焼きの中にキリストの磔刑を見出した「<骨付き肉>とは何か」など、刺激的かつ挑発的な思考が展開されている闘争の書といえる圧巻の内容。料理について新たな視座を提供してくれる。

美味しい料理の哲学 (シリーズ・道徳の系譜)

美味しい料理の哲学 (シリーズ・道徳の系譜)

 

 

③美食術 ジェフリー・スタインガーテン

数年前に高級料理を食べるためだけに世界中の星付きレストランを訪れる「フーディーズ」と呼ばれるブロガーたちの姿に迫った映画『99分,世界美味めぐり』が日本でも上映されたが、そんなフーディーズの元祖ともいえるのが著者のスタインガーテンだ。

 

まさに博覧強記とはこの人のためにある言葉で、ハーバードのロースクール出身の元弁護士であり、MIT(マサチューセッツ工科大)でも学んでいた経歴を持つ凄腕フードライターなのだ。昨今のフーディーズたちと一線を画すのは自分が食すあらゆる料理にまつわる文化や歴史に精通し、なおかつ自分で料理もするという世界一ストイックな食通といっていい。そんな彼が全精力をつぎ込み、ときには法律知識をも駆使して書き上げた至高の料理批評集である。

美食術

美食術

  • 作者: ジェフリースタインガーテン,Jeffrey Steingarten,柴田京子
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 ④すきやばし次郎 旬を握る 里見真三

世界中の美食家をうならせてきた伝説の鮨職人、小野次郎が自らの「すきばやし次郎」で供するすべてのメニューを公開した究極の秘伝的「江戸前握り鮨」技術教本。なんといっても圧巻なのは次郎さんの素材や産地への飽くなき理解である。

 

よけいな仕事は一切せず、妥協なき最高の食材を最高のタイミングで供するために全技術を投入する次郎さんの揺るぎない信念、料理哲学が溢れんばかりに詰め込まれた、まさに虎の巻だ。収録されている写真もまた素晴らしく、すきばやし次郎の世界観がそのまま本の中に再現されている。日本人ならば一読しておきたい見事な1冊。

すきやばし次郎 旬を握る (文春文庫)

すきやばし次郎 旬を握る (文春文庫)

 

 

⑤愛しの街場中華 『東京B級グルメ放浪記』2 鈴木隆祐

美食といって、なにも高価で高尚なオートキュイジーヌだけがその範疇ではない。否、むしろ街場にある、なんてことない大衆料理屋に独自の"美"を見出すこともまた美食ではないか。翻って言うと、それなりの金額を出して、それなりのものを味わうことは誰にでもできる。だが、安価な金額で期待値以上の味と出会ったとき、人は高級店での味わいをも凌駕する感動に遭遇するものなのではないだろうか。

 

最後に紹介するのは、なんの変哲もない街場に佇む昔ながらの中華屋に愛着を持ち、そこに繰り広げられる魅惑のメニューと人間ドラマを鮮やかに描き出した渾身のルポルタージュである。街場中華にこだわるからこその深い洞察と愛に溢れた、なんとも味わい深い1冊。

愛しの街場中華 『東京B級グルメ放浪記』2 (光文社知恵の森文庫)

愛しの街場中華 『東京B級グルメ放浪記』2 (光文社知恵の森文庫)

 

  

まとめ

以上、作り手・食べ手関わらず、料理をとおして違う角度から世界を眺めることができる名著を紹介した。つまるところ、料理を作るだけでなく食すこともまた芸術的な営みといえる。

 

「食」がもっとも身近な生存活動であるとするならば、その食し方次第で自らの感性に磨きをかけることもできるはずだ。今一度、供される料理について、あんたなりの解釈を加えて食してみてはどうだろうか。

 

作り手の感受性から食べ手の感受性へと連鎖し、より人生に実りをもたらしてくれるはずだから。