レンズの詩学

The Art Of Surviving Life , and Wisdom

ミネルヴァの梟の跳躍

なんの縁も所以も根拠さえ微塵もないのだけれど、それがとても重要で意味深なことだけは解る。みたいなこと、あんたにもないか?俺にとってのそれは所謂ネイティブ・アメリカン、つまり“インディアンの教え”といわれるやつだ。

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筋金入りの唯物論者でファンダメンタリストの俺は。一般的にスピリチュアルといわれるような迷信めいた、妙な言説が大の苦手だ。それがたとえば宗教的な儀礼に起源がある霊性だったり、アニミズムにもとづくものだったならまだ理解はできる。ところが、だ。誰が決めたのか怪しいような、一切根拠のない運命決定論だったり。これだけ霊的なものが列をなして溢れかえっている現代日本社会に、何故か“龍”みたいな恣意的なギミックに限定してしまう精神世界のお話だとか。そんなのには、とにかくうんざりしてて。

 

スピリチュアルはスピリチュアルでも、抑圧された精神によるダイナミックな躍動を体現した『ジャズ』や『能楽』、フラダンスの起源でもある『フラ・カヒコ』なんかには強烈なシンパシーを感じてたりするんだけど。もともとインディアンに興味があったわけじゃない。ラテンアメリカに妙な親近感を持っていたのは確かだけど、もっぱら南米が専門で北中米にはさして関心がなかったんだわ。

 

もう10年以上も前に、ひょんなことでナバホ族の革製品を手に入れたことが始まりで。アクセントに飾り付けられていたターコイズの天然石に魅せられて、数冊のインディアンとインディアンジュエリーの関連本を買った。そこで彼らのユニークな自然崇拝と叡智の深さに触れて。でも当時は企業でばりばり働いてたときだから、今ほど自然観だったり宇宙観、死生観というものにベクトルは向いてなかったのが事実で。

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そして最近。それこそ若いころは貪欲に知識を吸収するため年に100冊近く読書に勤しんでいたのが、四十を前にしてめっきり読書量が減ったことに気付く。ある程度、経験的に自分にとって肌が合って有益な情報へのアクセスが目利きできるようになったというのも事実なんだけど。いわゆるリベラルアーツ的な教養がすんなりと脳に浸透してこなくなったんだ。興味や関心がないわけじゃない。ただ論理的に正しく、理路が整った文章に対する”意味への抗い”が顕著に自分を支配している。そんな感じ。だからといって知識欲が減退しているわけではないから話が厄介なんだ。

 

もっとシンプルで、本質的な言葉を身体が欲している。そう実感したときに思い出したのが、かつて少しだけかじったネイティブ・アメリカンの言葉だった。

 

メキシコのネイティブ・インディアンの思索と行動を通して、その宇宙観や世界観を紹介したカスタネダの『呪術師と私』も衝撃的だったけど。ブラック・エルクやシアトル首長の言葉、各部族の生き方の教え、聖なる歌、合衆国憲法に影響を与えたイロコイ部族連盟の法の抜粋、現代の長老たちからのメッセージなど、アメリカ先住民の色々な部族の男女が語った「知恵の言葉」110篇を収録した『それでもあなたの道を行け』って本があるんだけど、冒頭こんな言葉で幕を開ける。

 

最近の人は知恵ではなく、知識ばかりを求めている。

知識は過去のものだが、知恵は未来からやってくる。

➖ヴァーナン・クーパー(ランビー族)

 

ヘーゲル『法の哲学序説の有名な名言「ミネルヴァの梟は黄昏に飛び立つ」にも通ずる言葉だよな。梟と言えば、ギリシャでは真理の守護女神アテナの傍らに夜の知恵の守護者である梟が常に描かれていて。明示的な知恵の象徴であるアテナとは対照的に、形式知で捉えることのできない超自然的な全能な知恵の象徴としての梟の姿が古代ギリシャにはあった。

 

ここからは中沢新一が書いてることなんだけど。ネイティブ・アメリカンの神話の世界では梟は生と死がひとつに絡みあいながら流動していく、矛盾にみちた現実世界の真実を見つめている「夜の知恵」の持ち主であるとされてきたらしく。梟は未来を予知してそれを人に告げる鳥として、よいことばかりでなく不吉な預言者としての姿をも持ち、さらには「貪欲」なものの象徴としてもしばしば登場するらしい。著書『ミクロコスモスⅠ』にドッグリブ・インディアンの語る「梟の女」という、なんとも不気味な神話が収められている。

 

オリエンタル思想と西洋哲学とにまたがって。「梟」という一つのレトリックを媒介にしても、やっぱり知恵っていろんな角度で繋がるよなって改めて思った。そういえば昔「読めば、あなたの知層になる」なんてAC(公共広告機構)の宣伝文句があったな、なんてことを不意に思い出した。

 

それじゃ、Adiós, amigo!

  

ミクロコスモスI -夜の知恵 (中公文庫)

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呪術師と私―ドン・ファンの教え

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